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雑談:ブリッジAIが人間を超えるのはいつなのか

こんにちは鶴です。


コロナ自粛にも飽きてきたので、そろそろ地方のリジョナルに出たいなあと思っています。


さて、1か月ほど前にこんなニュースがブリッジ界に流れました。



AIがコントラクトブリッジで8人の世界チャンピオンを打倒、「AIによる人間に近い思考」が示されたブレイクスルーに


詳しい話は元記事や、引用記事の引用記事を参考にしてもらうとして、ざっくり以下のような内容です。


●フランスのスタートアップ企業NukkAIが8人のコントラクトブリッジ世界チャンピオンを集めて、AI「Nook」対戦。

●2日間で10ゲーム80セットがプレイされ、Nookは平均して80セット中67セットで人間に勝利。

●オークションはなく、3NTのみをプレイし、プレイの結果をAIと競う形式。

これまで囲碁やチェスなどで使われてきたAIは大量のデータセットから機械学習を通じて判断を下す「ブラックボックス」型AIであるのに対し、Nookは思考プロセスが人間に近い「ホワイトボックス」型AIであり、最初にゲームのルールを学習し、実際にゲームをプレイすることで改善していくという手法が採られた。


先に言い訳しておきますが、僕はAIの専門家ではないので詳しい話は全く分かりません。ですが、一応理学博士ではあるので少し背伸びして科学的な視点と、ブリッジプレイヤーとしての視点の両面からこの話を見ていきたいと思います。


1. 科学的な意義


「元記事を読んで、ブリッジでもAIが人間に勝ったんだ!すごいなあ」と思うのは立派な感想ですし、「人間の勝てるゲームが減っちゃうのはちょっと悲しいなあ」と思うのも一つの感想です。では科学的にはどんな価値があるんでしょう。僕が分かる範囲では以下の二つが考えられます。


①ホワイトボックス型AIであること

近年人間を超えて話題になった囲碁AIのDeepMindはディープラーニングを利用するシステムでした。その圧倒的な計算リソースを持って自己対戦を繰り返し、人間が絶対真似できない学習量でプロたちを圧倒していきました。ではDeepMindを使って練習すれば人間の初心者が上級者になれるかというとそんなことはありません。なぜなら、AIの指した手がなぜいい手なのかはプロじゃないと、あるいはプロでも完全には理解できないからです。


一方で今回のNookはホワイトボックス型で人間的な思考に近く、どういう風な考え方をすればうまくいくのか人間が判断できる可能性があります。これはAIを使った上達という点において、重要な違いになっていきます。

さらに、これがゲームならまあ別にAIの思考がわかんなくも命に別状はありませんが、例えばこの技術が交通整理のAIに応用されたときに、AIの何らかのエラーで事故が発生したらブラックボックス型だと原因究明ができない非常に厄介なことになってきます。

図1.AI発展の歴史[1]


②情報集合の平均的サイズが大きいゲームでAIが発展した


一般的にゲームには完全情報ゲームと不完全情報ゲームがあります。

完全情報ゲームはその名の通り不確定情報がない将棋や囲碁などのゲーム、不完全情報ゲームはポーカーやブリッジなど、相手の手札にわからない情報が存在するゲームのことです。(バックギャモンは完全情報ゲームですが不確定ゲームではあります)


さて、AIにとってそのゲームがどのくらい難しいか、というのは、どのくらい計算しなければならないか、その複雑さが重要な概念になります。

そしてこの複雑さにはざっくり2つの指標があります。

1つ目は情報集合数という指標です。かなり簡略化して書きますが、これは存在する局面の数です。例えば囲碁だと361すべてのます目が白か黒か空きのどれかなので3の361乗がざっくり存在する局面の数になり、それが大体の情報集合数です。このサイズが大きくなればなるほど当然計算が難しくなり、一般的なゲームの最上級である囲碁は最近DeepMindがクリアしました。


2つ目は情報集合の大きさという指標です。ポーカーを例にとって考えてみましょう。

たとえば自分がKJを持っていたとして、アクションしなければいけないとします。当然相手が何を持っているかは全く分かりません。要するに相手がAAだったとしても72だったとしてもその時のアクションは同じになります。2人でやっているときは相手の手のパターンは50C2で1225通りあります。つまり情報集合の中でこの1225通りは最善手が同じになります。囲碁では情報集合の大きさは1です。


情報集合の大きさが大きくなると、1つ1つの最善手の計算が複雑になり、これはシンプルに情報集合数が大きいものとは違う難しさがあります。(実際得られる解も50%でレイズ、50%でコールみたいな複雑な答えになります)


人間をだいぶ前に超えたポーカーは情報集合の大きさが10^3とそこまで大きくなかったので、全通り探索することすらできました。しかしブリッジはそれよりはるかに大きい10^15です。これまでの競技と違った難しさをもつブリッジで人類を超えたということに価値があると思われます。



図2.競技ごとの情報集合数と情報集合の大きさ[2]


2. ブリッジプレーヤー的な視点


僕は個人的に早くAIが人間を超えてほしいと思っています。しかし、今回の記事で本当に人類を超えたのか、という点に関しては僕はNoだと思っています。


以下の二つの理由からです。


①オークション部分をやっていない

ブリッジで最も構想力やスタイルが出るのはオークションです。プレイももちろん重要ですがビッドがないというのは将棋や囲碁で例えるなら詰将棋に近い段階や、ヨセの状態からスタートするようなものです。また、オークションがないということは、相手のビッドからハンドを読むというブリッジにおいて必須の技術が含まれていないことになります。


②対戦相手はほかのPCソフトで、人間的なプレイをしない

今回の対戦相手はPCソフトで、決まった特性を持っています。引用記事のサイトから実際の動画を見ましたが、その動きは人間的にはいびつでしたし、いくつか機械特有の特徴がみられました。そういう情報をAIがどう利用しているかはわかりませんが、実践のブリッジとは多少なりとも違う環境になっています。


つまり、今回の話はブリッジの特定の分野(機械が得意な分野)において人類を超えた、というのが正しい評価ではないかと思います。


3. ではいつ人類をこえるのか?


ここから先は僕の予想ですが、人類を超えるのにはいくつか段階があると思います。


①オークションシステムを含めたAIの発展

今回の記事ではオークションは入っていませんでした。そしてオークションをするときのビッドシステムは人によって違います。といっても無数にあるというよりは大きくいくつかには大別できるので、そのすべてにそれなりに対応したシステムは作成可能ですし、BBOやfunbridgeに入っているシステムでもかなり戦えると思います。これはそんなに時間がかからないorもうできているといえるでしょう。


もちろん、その時その時で人間がシステムをアップデートしていく必要があります。


②オークション情報を踏まえたプレイの発展

オークションによってある程度相手の手札というものは制限できます。これをどれだけ取り込んでプレイできるかというのは今回の記事からは判断が付きません。また別の記事でコンピュータブリッジ選手権の話で触れようと思いますが、数年はかかると思われます。googleが本気を出したら一瞬かもしれませんが。


③オークションシステムの自己発展

ここまで来たら完全な人類越えだと思います。どういうシステムが優れているのか、それをAIが自分で判断し、改善していくのにはこれまでのゲームにはなかった難しさがあると思われます。つまりこれまでのやり方では通用しないということです。新たな分野の発展には長い時間がかかります。10年単位ではかかってくるのではないでしょうか。


ほかの分野の発展と見比べたぼくの私見なので、あたるかはわかりません(笑)

でも、こうやっていろんなものの発展を予想しながら待ってみる、あるいはかかわってみるのって結構楽しくないですか?僕は好きです。





[参考文献]

[2]https://news.microsoft.com/ja-jp/2019/08/22/190822-difficulty-of-game-ai/




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