1. 前書き
どうも、前回の記事がちょっと好評だったのでver2を書こうと思った鶴です。
ver1はこちらから。
ブリッジは紳士淑女のスポーツ、基本的にほとんどのプレーヤーは優良ですが、ごくまれにやらかしてしまう人もいるものです。みんなで楽しむものだったはずのものが、正々堂々頭脳のぶつかり合いをするはずのものがどうして・・・。みなさんは絶対やらないようにしましょう。メリット何一つないんでね。
前回の復習ですが、ブリッジではルールに、表情やしぐさで情報を伝えてはいけないと明確に記載されています。故意でなくても伝わってしまった場合は、審判によって不利に裁定されてしまいます。ましてやわざと伝えるなんてもう完全なチーティングです。おふざけの軽い気持ちでもブリッジセンターでやったら出禁です。
さて、今回の主人公はエリネスク(Michael Elinescu) と ウラドウ (Entscho Wladow) のペアです。おじいちゃんですね。
(https://bridgeditalia.it/2014/04/elinescu-wladow-presentano-appello/ より)
2. どんなプレーヤー?
ドイツ代表のシニアプレーヤーで、世界大会d'Orsi Senior Bowlに参加しています。(ブリッジ界で奇数年に行われる世界最大の大会である「世界チーム選手権」はBermuda bowl(オープン部門、venice cup(女性部門)、d'Orsi Senior Bowl(シニア部門)の三つがあります。)
3. 発覚までの流れとcough signal
第1回で紹介したファントーニからさかのぼること2年、2013年9月の第41回世界チーム選手権大会(@インドネシア)の時でした。ドイツ代表としてシニア部門から参加していたエリネスクとウラドウを含むドイツチームは見事予選を突破します。
アメリカチームのNPC (non playing captain)であるコンプトン(Compton)はドイツのペアがふつうはできなさそうなトリッキーなプレイをして、それが結果としていいスコアに結びついているという試合前情報を得て、ドイツ戦に備えてその対策を講じていました。もしかしたら、この時点ですでに不正を疑っていたかもしれません。実際コンプトンはドイツチームをこっそり監視カメラでモニターするように運営に申し出ています。(この時は拒否されています)
その後、アメリカとドイツは順調に勝ち進み、決勝戦で対峙することになります。決勝戦は6ラウンドを2日かけて戦います。
そして対戦序盤のことでした。アメリカ代表ウォルド(Wold)は気が付きます。
「なんかドイツ代表、ハンド見るときやたら咳してない?体調悪いんかな」
と、いうわけでアメリカチームはそこからペアが咳をするタイミング、その回数をすべて記録します。そして情報を得たコンプトン、ついに、暗号の突破に成功します。
第二次世界大戦当時、世界最強の暗号システムだったドイツのエニグマを破ったアメリカ軍と同じ気分だったでしょうね。
暗号というものは解かれてしまえばすごく簡単で、二人は咳をすることで自分の手の中で枚数が1枚以下のスート(♠や♥などのマークのこと)があればそれを伝えていたのです。
♣=1回 咳をする
♦=2回
♥=3回
♠=4回
♠が短いときはもう咳まみれです。しかも♣、♦、♥、♠の順にきれいにランクが下から順に並んでいます。
アメリカチームのこうした動きとは独立に、運営もドイツチームの挙動がおかしいこと、コンプトンの申し出があったことを踏まえ、決勝戦の様子を映像に残します。ドイツチームはこの時点で完全に包囲されていました。
アメリカチームは決勝戦の後半で暗号解読が正しいことを確信し、(同時に、暗号を逆に利用し?)猛追を見せますが、一歩及ばずシニアボウルは161-172でドイツの優勝で幕を閉じます。この時のアメリカの心境はどんなものだったんですかね。
試合終了後の2013年10月、コンプトンはWBFに公式文書を送ります。WBFは、ドイツチームがシニアボウル後の別の大会でも同じ不正をしているところを証拠として押さえ、事態は公式にも発覚へ至ります。
4. その後
ドイツチームは裁定に対して反発をしますが、証拠を押さえられてしまっているため、2014年にWBFから次のようなペナルティーが与えられます。
2013年シニアボウル優勝取り消し
不正が事実と結論付けられた以上、当然の結果だと思います。これによりアメリカは繰り上げで優勝になりました。ドイツは金メダルの返還を拒否したようです。
WBFの試合10年出禁+ペアで組むことの生涯禁止
WBF (world bridge federation)が運営する世界大会(bermuda bowlなど)に10年の出禁とペアでの参加の生涯禁止が言い渡されます。エリネスクは当時61歳、ウラドウは当時71歳だったので、第一線でもう一度活躍することはないでしょう。
ついでに別の不正もばれる
後日、映像解析によって、自分がすごく弱い手であることを手を使って示していることが発覚します。
ほとんどのプレーヤーは
①カードが収められているボードから、自分のカードを抜き取る
↓
②余計なしぐさが伝わらないようスクリーンを閉める
↓
③カードの枚数を数えて正しいことを確認する
↓
④カードを見る
の順にプレーします。
一方エルネスクとウラドウは②と③をすっ飛ばして④カードを見るを先にやっています。そしてスクリーンを閉めるときに、自分の手がとても弱い場合、手で払うような動きをしています。
文章だとわかりにくいですが、youtubeに動画が上がっています。
(https://www.youtube.com/watch?v=1xVj1EQ_vSI)
なんでこんなに派手にやってるの?と思う人も多いでしょう。
前回の記事で書いたようにブリッジは残念ながら不正しやすい競技です。また、ほとんどの人は不正している人がいるなんて思っていないんで気が付きにくいんです。ドイツのペアも最初はごく低頻度でやっていたんだと思います。でもだんだん手口が派手になっていき・・・という結末だと思います。
重ねて書きますが、こんなことをするプレーヤーはめったにいません。ほとんどのプレーヤーが礼儀正しい優良な人々です。ブリッジに興味を持ってほしくて「毒」な部分も書いていますが、ブリッジに対する悪いイメージを持ってほしくないのが正直なところです。
こういう案件にはいろんな意見があると思います。こういう記事を書いてほしいというご意見や、感想などがありましたらコメント欄に書いてくれたら反映されるかもしれません。いいねもよろしく!
Comments